地中海と紅海を結ぶスエズ運河の要衝として栄え、世界の航路が交差するエジプトの港町ポートサイド。20年以上前のあの日、世界一周クルーズの途上でこの地に降り立った私は、人類の至宝が眠る古代のロマンへと向かう高揚感に包まれています。前夜に入港し、観光に使えるのは実質1日だけという限られた時間でしたが、50代を迎えた今、手元に残る当時の紙幣や色褪せないパピルスの絵葉書を見つめると、あの日肌で感じた現地の強烈な熱気が鮮やかによみがえります。6月上旬の旅行記として、当時の興奮に満ちた大冒険の記憶を紐解いてみたいと思います。
エジプト ― 知っておきたい基礎知識
広さ
総面積は約100万平方キロメートルであり、これは日本全体の国土面積の約2.7倍に匹敵する広大な規模を持っています。その広大な国土の大部分は、生命を拒むかのような不毛で広大な砂漠地帯によって占められているのが大きな特徴です。
気候のポイント
一般的なエジプトの気候
国土の大半が砂漠気候に属しており、年間を通じて極めて乾燥し、雨が降ることがほとんどない特徴を持っています。夏季の日中は気温が著しく上昇する一方で、夜間は放射冷却により気温が急激に下がるという、日較差の激しい気候特性があります。
旅の舞台ポートサイドの気候(6月上旬の様子)
地中海に面した沿岸の港町であるため、内陸の純粋な砂漠地帯に比べると、うだるような熱気の中に海からの湿度がほんのりと混ざり合うような独特の空気感でした。
(最新の情報は「エジプト観光庁 (Visit Egypt) 公式サイト」にてご確認ください)
ピラミッド群を探訪する旅とカイロの至宝
想像を超えた高さと、偉大な歴史の威容
当時、私がこの歴史ある港に降り立った際、エジプトの神髄に触れるために参加したのが、ポートサイド港を起点としてギザを目指すピラミッド群を探訪するツアーでした。オプショナルツアーのバスに揺られて移動し、ようやく目の前に現れた巨大な建造物の前に立った時、私は言葉を失うほどの衝撃を受けました。
テレビや写真で何度も目にして、その姿を知っていたつもりでしたが、間近で見上げるピラミッドの1つ1つの高さは想像を遥かにはるかに超えて高く、圧倒的な威容で私を見下ろしていたのです。当時はまだ一部のエリアで実際に巨石の表面に足をかけて登ることが許されており、遥か古代の人々が積み上げた歴史の結晶に触れながら、その斜面を少しずつ登ることができたのは言葉にできないほど嬉しい体験でした。すぐ近くに佇む大スフィンクスの、長い年月を風砂に耐え抜いてきた厳かな横顔も、周囲の乾いた空気と相まって、私を完全に古代の世界へと引きずり込むような強い存在感を放っていました

観光地での洗礼と、必死の英語交渉
この地での忘れられないエピソードといえば、異国情緒あふれるラクダに乗った体験です。先を急ぐ旅の中で立ち寄ったエリトリアでは、船が組んでくれたピースキャラバンとして皆で素朴にラクダに揺られましたが、ここエジプトでは、ラクダ乗り自体が完全に洗練された一大観光産業として成り立っているようでした。
乗る前、周囲の先輩旅行者たちから「乗る値段だけでなく、降りる値段まで最初に確認しろ」と強く念押しをされており、最初は耳を疑いました。乗せるだけ乗せて、降りるときに高額な料金を要求するという、現地ならではの少々手荒い観光地ビジネスの洗礼がそこにはあったのです。つたない英語を駆使しながら、一緒に行った友達と身振り手振りを交えて必死にアピールした時間は、緊張感がありながらも、今振り返ればあの日だからこそ分かち合えた本当に良い思い出です。

サファリの興奮の後は、華やかな文化の足跡を巡りました。アレクサンドリアの地では、息をのむほど美しい白亜のドームと繊細な彫刻が施されたアブー・アル=アッバース・アル=ムルシー・モスクの壮麗な外観を眺め、その精緻な美しさに目を奪われました。その後訪れたエジプト考古学博物館では、ツタンカーメンの守護像をはじめ、まばゆい輝きを放つ黄金の玉座、蓮の花から立ち上がる美しきネフェルトゥムの頭部、そして厳かに安置されたアヌビス神の神殿と、その上に佇む漆黒のアヌビスの小像など、古代の息吹がそのまま残されていました。限られた時間の中で、人類の至宝を網羅したあまりに贅沢な空間に終始圧倒され、時の経つのも忘れて見入ってしまいました。



当時の通貨と、忘れられない記憶
手元に残るエジプト・ポンド紙幣
旅の終わりに手元に残って、今でも大切に保管しているエジプトの通貨「エジプト・ポンド(EGP)」。数字の「50」と「10」が印刷された、少し端が擦り切れた2枚の紙幣です。
これらの紙幣を久しぶりに指先でつまみ上げてみると、あの砂漠の容赦ない砂嵐の感触や、ラクダの上から見渡した地平線の広がりが昨日のことのように鮮やかによみがえってきます。
当時の10ポンド紙幣には、イスラム建築の美しいモスクが繊細なタッチで描かれており、手渡された瞬間にそのお札自体の異国情緒に感動したのを覚えています。通貨事情を調べてみると、近年のエジプトでも、偽造防止と耐久性を向上させるためにプラスチック製の「ポリマー紙幣」への切り替えが進んでいるようです。つまり、私の手元にあるこのクタクタとした昔ながらの紙の10ポンド札や50ポンド札は、現地でも徐々に姿を消しつつある、あの激動の時代を共に旅した何よりの証拠であり、貴重な歴史の断片なのだと感じます。

パピルスの絵葉書と、20年目の答え合わせ
紙幣とともに、私の手元には当時自分用のお土産として購入した、パピルス紙で作られた美しいポストカードが残されています。古代エジプトの壁画が色鮮やかに描かれたその絵葉書は、当時日本で友人たちに配った際も「珍しくて素敵!」と大変評判が良かった自慢の土産物でした。
ただ、エジプトの観光地では、安価なバナナの皮などの繊維を使って作った「パピルスの偽物」が多く出回っているという話を、後になって耳にしました。当時は若さゆえに何も疑わず、直感だけで購入したものでしたが、50代になった今、手元にあるポストカードを光に透かしてじっくりと観察してみるという、正直な答え合わせを試みてみました。20年以上が経過した今でも、絵の具は驚くほどきれいな状態を保っており、表面にはパピルス特有の縦と横に交差する無骨な天然繊維の筋が、はっきりと目視で確認できます。この強靭な耐久性と独特の手触りを見る限り、私が必死に手に入れたこの1枚は、おそらく間違いなく本物のパピルスだったのだろうと確信し、どこか誇らしい気持ちに満たされています。
あの日滞在したポートサイドの港や、熱気に満ちていたカイロの街並みは、現在のエジプトでは新しい大博物館の開館や都市開発が進み、当時よりもずっと快適で洗練された観光国へと変貌を遂げているようです。たとえ時代がどのように移り変わろうとも、あのラクダの背の上で友達と大笑いしながら交渉した記憶と、手元にあるパピルスの確かな手触りは、私の心の中でいつまでも色褪せることなく輝き続けています。

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※この記事は20年以上前の体験をもとに構成しており、現在の正確な現地の状況については公式サイト等をご確認ください。
今回の訪問地:エジプト

